村から医者がいなくなった!『ディア・ドクター』
第9回ブログ、担当はケンです!
今回取り上げる映画は西川美和監督の『ディアドクター』!
ちょうど無料動画gyaoで無料で公開されていたので、久しぶりに見てみました!
『ディアドクター』は人口一千人、そのほとんどが老人という山あいの小さな村から唯一の医者がいなくなってしまったという話です。
この村の医者である伊野は村中の人から慕われ、村長からは神様や仏様よりも伊野先生の方が大切なんですと評されます。
しかし、その先生は失踪してしまいます。
伊野はなぜ失踪してしまったのでしょうか。
予告編で差し込まれた文章
人は 誰もが
何かになりすまして
生きている
なんだかざわざわしますね。笑
予告編見て興味持った人は是非、本編見てみてください!
と言う事で、ここからはネタバレありで記事を書いていきます。
ーーーーーーーーーーー 見た人向け ーーーーーーーーーーーー
本物と偽物の差は?
失踪した伊野は医師免許を偽造していた偽医者でした。
しかし偽医者である伊野のバックグラウンドを刑事たちと一緒に紐解いていくと、医者の資格とは何なのか、人を助けることには特別な理由が必要なのか、といったことに明確な答えを出せなくなります。
最初伊野を悪人だと決めつけてた節があった刑事たちでさえ最後は何が正しいのか分からなくなっています。
村人や関係者に問いただしても、偽医者の伊野はこの村で三年間しっかりと村の医師としての役目を果たし、伊野を悪く言う人はいなかったからです。
この真偽の疑問にもっとも翻弄されたのは村に二ヶ月間研修に来た研修医・相馬(瑛太)かもしれません。
経営のことばかり考えている医者である父親と患者と向き合う偽医者である伊野
この二人に挟まれ、伊野に本物であってくれと願うように田んぼで探し続ける相馬が思い出されます。
伊野の動機を探る
伊野の動機を良く表すシーンがありました。
製薬会社の営業で、胃潰瘍持ちの斎門(香川照之)
何のために伊野は村人を助けていたのか、
それを聞いた斎門は椅子に座ったまま後ろに倒れ、
刑事さん、これは愛ですか?
僕のことなんか好きなわけないですよね?
それでもその手が出たでしょ。
そんな感じじゃないですかね、たぶん。
刑事たちは斎門に言葉を返せません。
斎門はおそらく一番早くに伊野が偽医者だと確信した人物です。
斎門は製薬会社の営業で、伊野から患者を紹介してもらい顧客を増やしています。
伊野はこの村の医者になる前にトウソウ製薬という会社で働いており、斎門とはいわゆる同業者でした。
おそらく仕事のつてで伊野の正体を知った斎門が話を持ちかけたのでしょう。
二人の関係は「トウソウ製薬の営業の人に会った」と伊野に話して、薬の顧客拡大を迫るシーンにも示されています(
しかし、斎門が伊野の正体を知りながらも胃潰瘍の写真を提供したり、診療所にこない村人に薬を届けたりして、伊野に協力していたのは、営業の面だけではなくて、
そんな彼が言う事が最も伊野の動機を理解しているように思えます。
伊野が村の医者になった経緯
伊野は三年前に村長によってこの村に連れてこられました。
序盤に研修医の相馬が飲みの席で、村長から何度も
伊野先生を連れてきたのはこの私、先生を連れてきたのが最大の功績だ
といったことを言っています。
このシーンから考えると、三年前に
そして伊野が少し助けようと思って動いたことがどんどん連鎖して事が大きくな
伊野と研修医・相馬が二人で話しているシーンでは、
この村が好きでいるわけじゃない、
診療所の医者になって弾がひっきりなしに飛んでくるから打ってい
打ち始めると夢中になって打ってしまっただけだ。
と相馬に吐露しています。
このことからも目の前に次々にやって来る人々に手を差し伸べ続け
手を差し伸べ続けた末の失踪
伊野の失踪の理由を考えます。
物語の序盤で、伊野は村人と向き合う素晴らしい医者で、村人からも賞賛されており、村との関係は非常に良好であることが示されました。
物語の中盤で伊野は
研修医から「伊野先生が医者じゃなかったら誰が医者なんですか」と羨望の眼差しを向けられ
緊張性気胸で運ばれてきた患者への対応で医者の覚悟を問われ
今までになかったことが立て続けに起こり追い詰められてい
伊野はこのプレッシャーに押しつぶされそうになりますが、簡単にはそのプレッシャーから逃れることはできません。
伊野のいる村がしっかり機能しているからこそ、
緊張性肺気胸の手術が終わった後に伊野がエレベーターにのり、その場を去ろうとしたことからも、この状況から逃げたい気持ちが無意識のうちに行動に現れるほど追いつめられていた事が分かります。
さらに伊野は追いつめられている状況でも胃癌である鳥飼さん(八千草薫)に手を差し伸べました。
(鳥飼さんは夫が先に死に村で一人でくらしているおばあさんで、娘たちがやっと仕事や家庭を持って村を出て行ったことから、自分の体調のせいで娘たちに迷惑をかけたくないと伊野に一緒に嘘をついてくれと頼んでいます。)
鳥飼さんの三女で医者のりつ子(井川遥)が帰省してきた時に母の容体を心配して診療所にやってき
しかし彼女が父親の病気に気づいてあげれなかったと後悔していることと、次の帰省が一
診療所にりつ子を留め、伊野は診療所を飛び出します。
ここまでで考えると、伊野がすべてを捨ててでもプレッシャーから逃れたくて失踪したように思えます。
伊野という医者
伊野は本当に責任に耐えきれなくなり失踪したのでしょうか?
斎門が評したように
伊野は誰か困っている人がいたら考える前に体が動く人間
だと思い
りつ子を置いて失踪した時も、鳥飼さんとりつ子の気持ち両方に挟まれて、反射的に二人のために行動したのではないでしょうか。
鳥飼さんは今更村を出るのは気が引け、かといって娘に村に戻ってきてもらうようなことはさせたくないという気持ちが病気と闘う上でネックになっています。しかし、伊野が失踪すれば状況が変わり、りつ子は母親を東京に連れて行こうとするでしょう。
伊野が失踪することが鳥飼さんとりつ子の気持ちの両方を取り持つ最善手だったのです。
伊野は診療所を出て、田んぼにいる鳥飼さんの前で白衣を脱ぎ、医者ではなかったことをそれとなく伝え、伊野の状況を察している斎門に鳥飼さんの胃カメラ写真を渡したことからも、鳥飼さんのことを気遣っていることが示されています。
そしてラストシーンです。
失踪事件のあと、りつ子に連れられ東京の病院に入院した鳥飼さんの
変装しお茶を出しに来た伊野が現れます。
伊野を見る鳥飼さんの表情が戸惑いと驚きから笑顔に変わっていくのを見る
西川美和監督は伊野の行為が良かったのか悪かったのかを明確にしませんでした。
鳥飼さんの病院に行く前に駅でタバコを吸っていた伊野が刑事たちとニアミスしたにも関わらず、刑事たちが気づく事ができないシーンがあり、このシーンからも伊野の行為を裁かずにしておく意図があったように思います。
医者になりすまし、医者に仕立て上げられた伊野。
彼の嘘は許されないと思いますか?
ケン(@90matsu)2015.3.29